konb 『Light and Shade』

 光と陰。表裏一体のふたつは濃淡を変えながら日々を灯し、曇らせる。トランペット奏者/プロデューサーのkonb初となるアルバム『Light and Shade』は、そんな日常を映しだした彼の「声」である。

 konbとは何者であるか。筆者は本稿を執筆するにあたって本人へ経歴をうかがった。もともとはサックスかトロンボーンを始めるつもりだったが、予算の問題で仕方なくトランペットを買ったのが始まりという笑い話も交えつつ。彼の音楽活動歴は長く、20年以上のキャリアがあるそうだ。

楽器を始めてからはBoogalooやSalsaといったラテン音楽のミュージシャンとして活動を行い、2010年前後には即興演奏へ傾倒。筆者が彼と出会ったのはその頃で、金から赤へ染まったトランペットがクリップマイクとエフェクターへ接続され、ロングトーンとともに深いエコーを奏でていたことを覚えている――――

彼が心から敬愛する、こだま和文/MUTE BEATの音を一人で体現するかのように。その後はエクスペリメンタル・ダブ・バンド、GROUNDCOVER.の一員として数年間オルタナティブな音楽を模索。そして現在ではLofi Hiphop(以降は簡潔にlofiと記す)のプロデューサーとしてさまざまな楽曲制作やコラボレーションを行っている。

 アルバムの内容に話を移そう。当人いわく『Light and Shade』は「はじめてlofiへ本気で向き合った」作品なのだという。これまでも数多くのlofiの制作をしてきたkonbだが、自身に対してどこかイロモノのような意識があったらしい。

それは彼のルーツであるLatin・Bossa Nova・Dubなどの影響が強いアレンジによるところが大きく、これまでソロで出してきた作品については本流から外れた(あるいは外した)遠回しな表現であったということのようだ。また、彼はトランペット奏者としてlofi楽曲の共作に携わることが多く、プレイヤーだけではない、いちコンポーザーとしてまとまった作品を提示する必要性を感じていたと話している。

 トランペット奏者の作品であるからして、当然曲の主役はトランペットということになる(M1『everyday』を除く)のだが、実のところlofiというジャンルにおいて管楽器を主体とした楽曲はあまり多くない。そもそも、lofiは伴奏・リフがループするだけのものや、コード進行に沿って時折ピアノやギターの装飾音が入るだけのものなど、旋律があいまいな傾向にある。

これはBoombapから派生した歴史的経緯と、ムードの形成やリラックス効果を狙ったジャンル的特性であり、管楽器の自立を感じさせるリードトーンは、伴奏のいち要素としてさり気なく入れられることがほとんどである。

そのようなジャンルにあって、トランペットを主旋律においたkonbの楽曲は意思をもって聴き手へ訴えかけてくる。そこには明らかな音楽的主張が含まれており、この作品は彼なりのlofiであると同時に、音楽家・konbの表現の発露として受け止めるべきだろう。

 lofiを意識したといっても、彼が本来もつ素養は本作でもじゅうぶんに活きている。

具体的には、アルバムを通して裏拍のグルーヴを感じとれるし、M2『behind the shadow』・M5『memento mori』で使われる付点のディレイや、M3『detour and detour』の3拍目を意識したベースラインとオブリガードとして挿入されるスティールパンは明らかにカリブ海由来のもの。また、M6『dancing on the crack』の伴奏ではマイルス・デイヴィスの『So What』を思わせるフレーズが奏でられ、彼の音楽的な取り組みと研鑽の歴史をアルバムのいたるところで見出だせる。

 作品全体にどことなく漂うセンシティブな感性とノスタルジックな響きは、lofiへの敬意であると同時に、konbという音楽家の核ともリンクしているように筆者には感じられた。

例えるなら、痛みや諦めを抱えたままに歩みつづけるもろさが、他者へ向けられる優しい音色となり、聴き手の体をあたたかく包み込んでいるような、そんな印象を受けるのだ。M4『she is so tired』のサブトーンはタイトルにある<she>への思いやりにあふれているように感じるし、M5『memento mori』のシリアスな主旋律やM8『cultivators』の穏やかで気だるげなトーンからは、「それでも日常を生きていかねばならない」という声が聞こえてくるようだ。

そう、声。トランペットは彼の声なのだ。

声に耳を傾けること、そこからなにかメッセージを受け取ること、それこそがkonbの望んでいることなのではないか――――筆者はこの作品を聴きながらそんなことを思った。

 光と陰を冠した本作では、lofiがもつチルなムードとともに彼が生きる日常の明暗を映し出している。

明暗の対比は、強さと儚さ、感傷と無機質、郷愁と現実……さまざまなグラデーションとなって聴き手の日常を彩るだろう。

Text:Watasino

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