「DAWによって音は違う! あのDAWは優れてて、あっちのDAWはイケてない」みたいな論争を繰り広げている方々もいらっしゃいます。
それに対して、「DAWごとの音なんて大きくは変わらないし、そんなこと気にかける前にスキルを磨いてきなさい」と一蹴する声も。
これらの論争に対して、一つの明確な答えを明示するなら、DAWによって、音は確実に変わります。これはもう無視できないほどに変わります。間違いありません。
ただ、誤解なきようにお伝えしたいのは、どれが優れていて、どれがイケてない、という話ではありません。ただ、タイプが違うのです。
音質の違いこそあれど、人それぞれ良いと感じる音は様々です。それに、DAWの良さを決めるのは音質だけではありません。操作性、機能性、価格など、それらの総合評価で自分に合うものを選ぶべきです。
7種類のDAWを比較! 音質や操作性の違いをレビュー!
さて、今回比較するDAWは以下の通りです。
主要DAW7種
・Logic Pro
・Protools
・Ableton Live
・FL Studio
・Studio One
・Cubase
・Digital Performer
これら7種類を、それぞれ時間をかけて使い込んでみました。それなりにメリット、デメリットは把握できたと思っています。
それではさっそく、見ていきましょう!
Logic Pro
2022年5月9日時点の最新バージョン、10.7.4で検証。
【GUI】
個人的には一番見やすくて◎。
トラック単位でアイコンが設定できる機能も好き。どんな楽器の音が鳴っているのか、一目でわかりやすい。
【機能性】
可もなく不可もなく。プロ向けDAWソフトでよく使われる機能はちゃんと網羅している。
音声のストリップサイレンス(無音部分のみカット)機能や、トラックごとではなくリージョンごとにオーディオトラックを書き出せる機能が他DAWよりも充実している。波形の処理も、Protoolsほど柔軟ではないが、やれないことはない。
なので、声優のセリフ録りやナレーション録りにおいては、他のDAWよりもLogic Proが優位に立っている。実際、声優向けのスタジオでは、ProtoolsではなくLogic Proが導入されている現場も少なくない。
あと、譜面を作るならLogic Proがベストらしい。もともとは譜面作成に特化したソフトだったとのこと。
【操作性】
さすがAppleといったところで、比較的かんたん操作で感覚的に扱える。ショートカットキーも充実していて、覚えれば様々な操作が素早くなる。
2019年あたりのバージョンアップで、サンプル管理がLogic Pro内でできるようになった。おそらくAbleton Liveの操作性から着想を得たのだと思う。
これがとても良く、Logic Pro特有の視覚的な見やすさも相まって、さらに使いやすくなった印象。
【サウンド】
・左右の音場:やや広い
・天井:やや低い
・奥行き:やや深い
・その他特性:音の粒が大きく太い。全体的に丸みを帯びていて、なめらかな音
音の粒が太く、密度があるように聴こえる。しかし全体的には丸みを帯びていて、緩めの音像。そのせいか、天井は少し低く感じる。
良く言えば音がまとまりやすい。悪く言えばちょっと地味なサウンド。音の分離感は他DAWの方が良いと思う。
決して揶揄しているわけではない。空間に対して、持ち前の密度の濃い音で隙間を埋めやすいので、こっちのほうがミックスしやすいって人も多いはず。
【動作の軽さ】
Logic Proに最初から付属しているネイティブプラグインのみの使用なら軽快に動作してくれるが、サードパーティ製のプラグインを使用した途端に不安定になる。
特に、M1チップになってからその傾向は顕著。「Macとの相性抜群で動作も超安定!」という意見は少し曇りがちである。当面の間はロゼッタ起動を駆使する必要がある。
【ドングル認証】
ドングル認証は一切不要で、オフラインでの使用も可能。これは本当に素晴らしいの一言。
【価格】
フルバージョンでありながら、他DAWと比較して最安値。その後のアップデートも追加費用なしという素晴らしい仕様。
ただ、MacパソコンがWindowsパソコンに比べて高すぎるという罠。
【総評】
Logic Proの優位性は見やすくてシンプルな操作性であること、そしてネイティブプラグインがすごく充実していること。
生音もシンセもハイクオリティだし、エフェクトプラグインもアナログモデリングされたものがあったりして、音源やプラグインを追加で買わなくても結構戦えるんじゃないかと思います。
Apple特有のユニークなプラグインもありますし、リバーブなどの空間デザイン系のプラグインも充実しています。そういう点も含めると、やはり総合評価としては高くなってくる印象です。
Pro Tools
022年5月8日時点の最新バージョン、Protools Studioにて検証。
【GUI】
見やすさというか、視認性で言えばここがベーシックなラインかも。比較的使いやすく感じる。ただこれはもう好みの問題。
【機能性】
作曲家ではなくエンジニア向けのDAWなので、レコーディング、ミックスで使用するなら理想的な機能が備わっている。波形の処理などは大得意。
また、エフェクトをトラックにインサートするだけでなく、オーディオのクリップ(Logic Proで言うところのリージョン)単位で適用することができるのも素晴らしい要素。部分的に異なるエフェクト処理ができてしまう。多くのスタジオにProtoolsが導入されている理由は、単に古参だからというだけではない。
2022年5月のアップデートで、フォルダトラックが導入された。複数のトラックをフォルダに分け、自由に開閉できる上に、バストラックとしてエフェクトのインサートも可能となった。
また、Dolby Atmosミックスにも対応可能した。音楽の表現が広がったと思うと、これも嬉しい追加機能である。映画音楽だって作れちゃう。
【操作性】
ショートカットキーが、もうほんとにエンジニア向けの内容。
レコーディングやオーディオ処理、ミックスをするなら間違いなくProtoolsがベストな選択肢だと言える。慣れてさえしまえば、整音作業はもっとも早い。
【サウンド】
・左右の音場:広い
・天井:高い
・奥行き:深い
・その他特性:音はフラットな傾向だが、少しだけ重みというか、厚みがある(気がする)。音の分離感も程よく、全体的にバランスが取れている。
空間が広く、楽曲の演出をデザインしやすい。ワールドスタンダードたる所以がここにある。
左右の音場、天井の高さ、奥行き感すべてにおいて、絶妙にバランスが取れている。音の分離感も良い。
余計な脚色もなく素直に音が鳴るが、なんとなく密度のある音な気がする。ぜひ皆さんのご意見もお聞きしたい。
プレイバックエンジンが華美でありすぎることもないので、DAW上で流す音と、書き出された後のオーディオデータとの音の変化が少ないことも高評価。
ミックスしやすいと感じるポイントは人それぞれだし、使いやすいものを選べば良いと思うが、テレビに出ているようなプロアーティストがリリースしている楽曲の多くが、Protoolsからバウンスされる工程を挟んでいることは一考するべき。
【動作の軽さ】
一昔前はもうどうしようもなく調子の悪い困ったちゃんだったが、最近は改善された。マシンパワーさえ増強してあれば、急に落ちることは少なくなった。
ただ、突如シャットダウンされる危険性が全くなくなったわけではない。直近で僕も数回経験している。やはり、使用するならこまめに上書き保存しておくのが理想。
【ドングル】
数年前に、iLokのUSBキーが必須ではなくなった。
が、iLokを挿さない場合はクラウド認証が必要なので、ネット環境が整っていなければ使えない。いつ、どこでも使えるように、結局iLokキーを常に持ち歩いてしまうエンジニアも少なくない。
【価格】
今回ご紹介するDAWのなかでは唯一、サブスクリプション制を導入している。長く使おうと思ったら、気づけばとんでもない額を支払い続けている結果が待っている。
それでも、エンジニアの皆さんは我慢して使っている。なぜって、もっともエンジニアしやすいDAWだから。
つい先日、ミュージシャン向けのモデルも発表された。と同時に、永続ライセンスは今後完全に撤廃予定とか言い始めた。いよいよもって、長いお付き合いをするには勇気がいるDAWになってしまった。
【総評】
音の分離感が良く、空間を自由にデザインできます。エンジニアが好む理由がよくわかる。
ただ、トラックのモノラル・ステレオ変換に少し癖があるのと、サンプリングレートを途中から変更するのに面倒な工程を挟むので、エンジニアリングについてある程度の知識があり、このあたりの設定を迷いなくこなせるレベルになる必要があります。(偉そうなことを言っていますが筆者はこの辺りの知識は不十分で、いつも悪戦苦闘しています)
個人的には、作曲家を目指す方にはあまりお勧めしたくないDAWです。エンジニア志望の方には迷わずお薦めしたいDAWでもあります。
Ableton Live
最上位版であるLive 11 Suiteを、無料トライアルで使用。2022年4月9日時点の最新バージョン。
【GUI】
不要な情報は排除したような設計。とにかくシンプルな見た目。ただ、スタイリッシュさではやはりLogic Proが上か。
視覚的に見やすいかというと意見は分かれそう。(他のDAWにも共通して言えることではある。結局のところ好み)
個人的にはこのGUIは大好き。
GUIの見た目(公式にはテーマと呼ぶ)を変更可能で、Lighit、Mid Light、Mid Dark、Dark、Live9の5種類から選択可能。
【機能性】
もともとはライブパフォーマンスに特化したソフトだったこともあり、即興性を大切にしているDAW。完全に作曲家やアーティスト、DJ向け。
フレーズのコピーペーストやサンプルの管理がとにかく柔軟で素早い。
リバーブやディレイなどのセンドリターンも、「AUXトラックのインプットにどのバスを指定してー、リバーブかけたいトラックのセンド先をそのバスに合わせてー」などというお決まりの設定が一切不要。エフェクトトラックと呼ばれるものにリバーブやディレイをインサートすれば、自動的にバスにアサインしてくれる。
各トラックには、エフェクトトラックの数だけノブが追加され、それらを回せばセンドリターンの効果がすぐに得られるという仕様。なんて素晴らしいんだ。
エフェクトも、AU、VST2、VST3とそれぞれ対応しているが、Studio Oneのように全種類が一挙に表示される(同名のエフェクトのAU版とVST版が並んで表示される)ことはない。
AU、VST2、VST3とそれぞれカテゴリーが分けられていて、そのなかからメーカー、エフェクトの順に選んでいける。この辺りはよく考えられているなと思う。Studio Oneのあれ、めっちゃ見にくいもの。
また、オーディオを瞬時にMIDIに変換してくれる機能がすごくありがたい。どんなサンプル音源も、MIDI化して別の音色に差し替えてしまえば、オリジナリティを演出できる。
MIDI変換の精度も素晴らしい。もちろん完全ではないが、70%くらいは再現してくれる。何がすごいって、ベロシティなんかもある程度は再現してくれるのだから感動だ。
このDAWはトラックメイカーの新たなスタンダードとなるのではないかと思っている。
【操作性】
最初はGUIのとっつきにくさから使うのを敬遠していたわけだが、使ってみるとなるほど、簡単に作曲ができてしまう。
ショートカットキーも覚えるのにさほど苦労しなかった。慣れると爆速でトラックメイキングが完成するので、本当に魅力的。トラックメイカーにとにかく寄り添ったDAWだと言える。
しかし、ミックスは少しやりにくい。
エフェクトの積み方が少し特殊なのと、ミックスコンソール画面がなく、各トラックにインサートしているエフェクトを全体的に俯瞰して見れないので、どのトラックにどんな処理をしているのかが分かりにくい。
この辺りは今後のアップデートで改善されそうではある。
【サウンド】
・左右の音場:広い
・天井:高い
・奥行き:比較的深い
・その他特性:音の粒立ちは良い方で、分離感も十分に感じられる。ミドル(真ん中)に定位している音の力強さはなかなか。
一昔前は音がザラつきすぎて音質を低く評価されていたが、現在はそこは大幅に改善されている。他DAWとまったく遜色ない。
Logic Proと比べて、音が鈍らず、且つミドルに定位している音に力強さがある。個人的にはProtoolsと近しい音像のように感じているが、ミックスコンソールの機能的に、ミックスのしやすさではProtoolsには絶対に勝てない。
PanLowの設定値が特殊で、左右の広がり方は気持ちよく、奥行き感も十分にある。
【動作の軽さ】
動作はすごく軽快。この点においても優れたDAWだなと感じる。
たまに動作を突然停止して落ちることがあるが、ちゃんと直前のデータは記録してくれているので、そこまで大きな心配はない。
【ドングル】
有償版を買ってしまえば一切不要。オフラインでも使用可能。ただ、無料トライアルを使用している間はオンライン認証が必須。
先日サーバークラッシュしていて、無料トライアル版がまったく使えない期間があった。復旧後、トライアルの使用可能日数を追加で補填してくれたので、メーカーの誠意はとても感じる。この点においても好感が持てる。
【価格】
これがもう、アホみたいに高額でびっくりした。最上位版は8万円近くするのだ。
DTM初心者にすごくお勧めなDAWなのに、初心者がいきなりペイするには二の足を踏んでしまうという残念なジレンマを持っているDAW。
下位版も用意はあるが、わりと無視できない機能制限があったりして、買うメリットを正直感じられない。金額が下がれば、日本でも一気にシェア1位を獲得できるDAWとなる気がする。
最近になって、初心者向けにもペイしやすくなるよう、分割払いの仕組みが公式に導入された。
【総評】
トラックメイカーやアーティストが思い付いたアイデアを、頭から消えてしまう前に形にすることにフォーカスを当てたDAWだと感じました。
EDMやHip Hop、LoFi Hip Hopのトラックメイカー・DJから強い人気を獲得しているDAWです。
海外においてはシェアNo.1であることも評価点。現在はプロのエンジニアたちを絡めなくても、自宅のベッドルームで作曲のすべてを完結できる時代となりました。
感覚的な操作で、簡単にイケてる楽曲が作れてしまうので、トラックメイカーのモチベーションを高めてくれるDAWだと言えます。
FL Studio
最上位版であるFL STUDIO 20 All Plugins Bundleを、無料トライアルで使用。2022年4月9日時点の最新バージョン。
【GUI】
全体的に丸みを帯びたデザインで可愛らしい。見やすいと感じる人は多いと思う。個人的にも見やすいと感じた。
【機能性】
とても癖がある。ステップシーケンサー色が強く、ドラムの打ち込みは慣れるのにすごく苦労する。
グリッドに沿った打ち込みには秀でているので、EDM制作に特化したDAWだと言える。これでバンドものを制作するビジョンはまったく想像できない。
導入時に多くのデモプロジェクトが一緒にインストールされるが、それが非常に秀逸。サウンドメイキングの勉強にも持ってこい。
【操作性】
あまりにも他のDAWと操作性が異なりすぎて、他DAWからFLへの乗り換えを検討している方は要注意。慣れるまでにリタイアしてしまう方も少なくない。
ただ、FL StudioをメインDAWとしているミュージシャンはいっぱいいる。日本だとビッケブランカさんが有名か。海外では、ダンスミュージック界隈で愛用者の多いDAW。
【サウンド】
・左右の音場:広い
・天井:高い
・奥行き:広い
・その他特性:中域に厚みがありながら、カチッとしたサウンド。まさにEDM向け。
FL Studioを視野に入れた要因の一つは、その音質。サウンドがめちゃめちゃ個人的に好み。
左右の音場、天井の高さ、奥行き感、どれを取っても十分に確保されている印象。中域の密度は高いが、カチッとした硬めの音をしている。音の分離感もしっかりしているので、EDMにすごく向いていると思う。
【動作の軽さ】
これもまた、素晴らしい。難しい処理を施しているプロジェクトもすぐに立ち上がってしまうほど。メインDAWにしたい気持ちは山々。
【ドングル】
一切不要。オフラインでも使用可能。
【価格】
初期費用としての購入価格は他DAWと比較して若干低いくらいだが、FL Studioが素晴らしいのは、購入後はアップデートに一切お金がかからないこと。そう考えると、Logic Proの次に安価だと言える。
【総評】
まさしく、EDM専用DAWと言えます。世界のトップDJたちも好んで使用しているDAWです。操作さえ慣れてしまえば、強い味方になってくれるはず。
ただし、LoFi HipHopのような、グリッド通りにリズムを刻むのではなく、あえて不規則にずらすことで得られるリズムの揺らぎが心地よいジャンルで勝負する場合は、FL Studioを使うには少し厳しいものがあります。基本的にグリッド通りに打ち込むことに長けたDAWです。グリッドから外すことも出来なくはないのですが、一手間かかります。
Studio One
最上位版であるStudio One 5 Professionalを無料トライアルで使用。2022年4月9日時点の最新バージョン。
【GUI】
視認性は良い。Protoolsよりも少し見やすくしたような印象。
【機能性】
Cubaseのエンジニアが独立して作ったDAWだが、制作にあたり意識されたのはProtoolsである。ProtoolsとCubaseの良いとこ取りをしたような構成が特徴的。
例えば、Protoolsでは苦手としていたサンプルレートやビットデプスの変更や、オーディオトラックのモノラル・ステレオ変更も簡単にできてしまう。とても素晴らしい。
Cubaseから継承されている機能もある。クリップごとのボリューム調整が容易であることや、インサートエフェクトのプリフェーダー・ポストフェーダーの考え方が取り入れられているのはありがたい。
また、今回ご紹介するDAWのなかでは唯一、CDプレス時に必要なDDPファイル書き出し機能が備わっている。CDプレス用のマスタリングソフトとしても使える。
それだけではない。Ableton Liveのように、ライブマニピュレーションだって組める。まるで何でも屋のようなDAW。
常田大希さん率いるmillennium paradeがライブシステムをStudio Oneで組んだのは有名な話。
【操作性】
Pro Toolsをモデルとして作られたDAWでありながら、Pro Toolsとは明らかに異なる点が一つ。ショートカットキー。
Pro Toolsはエンジニアが好きそうな独自機能にショートカットキーが割り当てられているのに対し、Studio Oneは他DAWとさほど変わりのない機能に割り当てられている。このことから、Studio Oneがエンジニアではなく、ミュージシャンにフォーカスを当てて設計されたDAWであることが窺える。
ただ、他DAWから乗り換える際は注意が必要で、操作性にまったくクセがないわけではない。
エフェクトプラグインの差し替えとか特にそうで、ミックスコンソール画面から差し替えようとすると、不要なプラグインを一度消して、適用したいプラグインを新たに追加するという二度手間が発生する。
対処法はある。ブラウズから適用したいプラグインを、ドラッグ&ドロップで不要なプラグインの上に被せれば簡単に上書きできた。
これに気づけば、「あぁ、スタワン悪くないじゃん」と思えるのだが、気づくまでは結構なストレス。(経験談)
【サウンド】
・左右の音場:広い
・天井:高い
・奥行き:浅い
・その他特性:左右上下のレンジ感は抜群に広い。音の粒立ちが細かく、全体的にクリアな音。音の分離感も良く、個人的にはミックスしやすい。
音がクリアだというのは有名な話だが、これは実際にそう感じる。単純に良い音だと感じやすい音像をしているので、トラックメイキングではテンション上がるかも。
左右の音場、天井の高さも広々としていて、レンジ感は抜群に良い。音の分離感もはっきりしているので、個人的にはミックスはしやすい。
ただ、奥行き感が薄い。すぐそこに壁がある、とまでは言わないが、全体的に前に出てくるような音像だと感じる。この点が好きになれない人もいると思う。
ただ、物は使いようで、歌ってみたミックスやバンドものミックスなど、基本的に前面へのアピールが大切なジャンルにおいては素晴らしい味方となってくれるだろう。
あと、Studio One上で聴いている音と、Studio Oneから書き出したオーディオファイルの音が若干違う。後者の方が少し落ち着いている。
プレイバックエンジンが派手なのかもしれないが、書き出した後も比較的クリアな音ではあるので、大きな問題ではない。
【動作の軽さ】
これがまた、素晴らしく軽い。どんなに重たい処理を重ねても、落ちる気がしない。
ただ、たまに不思議な挙動をすることがあるので、ここは改善希望。プラグインのパッケージング、とやらの処理に何度も作業を邪魔されることがある。
おそらく、プロジェクトの自動保存時に何かをしているのだろうと想像しているが、煩わしいことに変わりはない。設定で回避できる可能性もあるので、使用する際は事前準備を入念に!
【ドングル】
一切不要。オフラインでも使用可能。
【価格】
今回のラインナップでは、ちょうど中間。DAWの価格の平均ラインがここかもしれない。
【総評】
音の分離感が本当に好きです。奥行き感の希薄さとプラグインのパッケージングは残念ではあるけど、機能性を考えたら目を瞑ることはできます。
プラグインのパッケージング問題さえ回避できれば、本日紹介するDAWの中ではかなり得点の高いDAWです。明瞭な音で、めちゃめちゃミックスしやすいので。
CDプレス用のDDPファイル作成が必要な場合は、専用ソフトを追加で買うのが嫌であれば、自然と選択肢はこのStudio Oneに限られてきます。マスタリング専用ソフトとしての活躍も期待できる、優れたDAWです。
Cubase
Steinbergより、最新版Cubase Pro 12のフリートライアルが公開されたので、そちらをインストールし使用。
【GUI】
こういうメカメカしくてゴツい感じが好きって人も間違いなくいるはず。
【機能性】
おそらく、DAWの中で一番機能が多彩なのはCubase。ミックスに特化した機能も多く、DTMerのなかには根強いファンも多い。
クリップ単位でボリューム調整が容易であることと、インサートエフェクトのプリフェーダー・ポストフェーダーを柔軟に設定できるのはCubaseの得意とするところ。
Cubaseのエンジニアが設計したStudio Oneにもこれらの機能は継承されているが、Cubaseがもっとも使いやすい。
ピッチ・タイミング補正機能や、コードアシスタント機能などが多彩なのも魅力の一つ。ディザーもMAATのLinOneが初期搭載されてたりしてて、羨ましい。
【操作性】
これが意外と、悪くない。できることが多いので操作が難解かと思いきや、そこまで他DAWと大きな操作性の差はない。普通に使いやすい。
【サウンド】
・左右の音場:狭い
・天井:低い
・奥行き:深い
・その他特性:低音の定位が、他のDAWよりも低い位置にあるように感じる。
すごく人工的な音だな、と言うのが正直な感想。左右は狭く、天井も低いのに、奥行きだけは思いっきり奥まで広がっている感じ。
『入り口が開いているライブ会場に、真正面から立っているような感覚』が第一印象。とにかく、とても不思議な音だ。
ただ、これは捉えようによっては悪い物ではなくて、ライブを想定しているようなバンドもののミックスには合う気がする。
また、ベースやキックなどの重低音は低い位置で聴こえるので、ローエンドの迫力は出しやすい。
【動作の軽さ】
Cubase 7.5のときは使い物にならない印象が強かったので、すごく警戒していた。が、全く問題ない。
動作は軽快だし、結構重たい処理をしてもエラーは少ない。ただ、都度上書き保存は推奨しておく。
【ドングル】
最新のアップデートで、USBドングルがやっと不要になった。
ユーザビリティを考慮してのことだと思うが、Cubaseユーザーが大歓喜したというだけでなく、Cubaseが気になっていた人たちにとっても乗り換えに心理的抵抗がなくなったというのは大きい。
【価格】
金額は本日取り上げたDAWのなかでは平均より若干高い。が、Ableton LiveやProtoolsほどではない。手は届きやすい方である。
【総評】
以前使っていた当時の印象が抜けず、あまり良い印象がない状態でデモってみたのですが、これが全然悪くない。依頼楽曲のミックスを試しにCubaseでやってみたところ、機能面ではかなりミックスしやすかったです。
ただ、出音はかなり好みが分かれると思うので、購入をご検討の際は必ずデモ版を使ってみてください。(これも全DAWで共通して言えることです。必ず購入前にデモ使用しましょう!)
便利機能も多いし、過去には残念とされていた仕様も改善されているので、DAWとしてはかなり優秀だと思います。
Digital Performer
最新版のDigital Performer 11のデモ版を使用。
【GUI】
Ableton Liveと類似したGUI。全体的に丸みを帯びていて、視認性は良い。ただ、一部において少々デザインが昔気質な印象も否めない。曲のタイム表記とか。
【機能性】
実は随分と昔から存在している渋いDAWで、商業作曲家には嬉しい機能が備わっている。チャンク機能とかそう。一つの楽曲のプロジェクトについて、Excelのタブ分けのように様々なバージョンで保存できるので、一つの曲をいろんな尺で編集しないといけないCMソングの作曲家などには嬉しい機能だと思う。
ミキシングコンソール画面も、必要な機能はまとまっていてミックスはしやすそう。
また、もともとMac専用DAWだったので、Macとの相性は比較的良い。AUだけでなくVSTも使用できるので、音質の変化に敏感な方にもありがたいのではないだろうか。
【操作性】
比較的直感的な操作で楽曲制作ができる仕様である。操作に難解さは特に感じない。操作のシンプルさにおいては優秀だと感じる。
【サウンド】
・左右の音場:やや広い
・天井:やや高い
・奥行き:広い
・その他特性:音の分離感はとても良く、ミックスしやすい。
Digital Performer上で音を鳴らしたときは全体的に軽薄な印象だったが、2mixとして書き出してみるとその印象は薄れ、意外とまとまっている。プレイバックエンジンの関係だろうか。何が起きているかは正直よくわからない。
音の分離感はびっくりするくらい良い。分離感、というだけなら、Protoolsよりも良い。Studio Oneと良い勝負だと思う。
ただ、音の重心、響きの奥行きの深さの観点で、Studio Oneとはサウンドの方向性は異なる。このあたりは好みの問題。
【動作の軽さ】
普通に作曲、ミックスをするだけなら軽快な動作をしている。また、重たいプラグインの動作を軽くする機能も備わっているようで、商業作家向けのDAW、というポジションはいまだに安定的である。
【ドングル】
一切不要。素晴らしい。
【価格】
フルバージョンのダウンロード版で66,000円なので、高い方ではある。が、Ableton LiveやProtoolsほどではない。
【総評】
ミックスのしやすさはかなりあります。他のDAWにはないほどの分離感を感じるのも確か。低音の表情は他DAWとはまたカラーが異なるので、こちらも購入前にデモ使用することを強くお勧めいたします。
機能面では商業作曲家に嬉しい機能が備わっているので、根強いファンは多い印象です。
【終わりに】DAW選びは本当に難しい
7種類の主要DAWについて比較結果を掲載してみましたが、いかがでしたか?
DAW選びは本当に難しいです。
その時々の自分が追求しているジャンルによっても、ベストなDAWは変わり得ます。本当にマッチするDAWがどれなのか、想いは揺らぐばかりでしょう。
この記事が、少しでもDAW購入を検討されている皆さんのお役に立てれば幸いです。
それでは、今回はこの辺で!
また次回の記事でお会いしましょう!!